次世代パワー半導体酸化ガリウムの欠陥三次元イメージング技術開発

2026年7月7日

次世代パワー半導体酸化ガリウムの欠陥三次元イメージング技術開発
~ 非破壊・高速で欠陥を検出、結晶とパワーデバイスの高品質化を加速 ~

株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)

I【概要】
 酸化ガリウム(β-Ga2O3)(注1)は、日本発の材料で自動車、鉄道、電力変換などに用いられる高効率・高耐圧のパワーデバイス(注2)材料として注目されています。こうした用途では、β-Ga2O3結晶中に存在する転位(注3)などの結晶欠陥(注4)が、デバイスの性能低下や信頼性劣化の要因となるため、欠陥の低減が重要な課題となっています。そのためには、まず結晶内部の欠陥を正確に観察・評価する技術の確立が不可欠です。
 株式会社ノベルクリスタルテクノロジーは一般財団法人ファインセラミックスセンターと共同で、光学顕微鏡の一種である位相差顕微鏡(注5)を用い、β-Ga2O3結晶中の欠陥を三次元的に可視化できることを検証しました。位相差顕微鏡は、操作自体は比較的容易でありながら、従来は特殊な装置を用いなければ観察が困難であった転位を、結晶内部にわたって立体的に観察できる点が特徴です。
 本検証により、結晶内部における欠陥の空間分布や種類を高精度に把握することが可能となり、結晶成長条件の最適化に向けた有効なフィードバックが期待されます。これにより、β-Ga2O3結晶パワーデバイスの高性能化・高信頼化が進み、今後のさらなる普及につながると期待されます。

図1 β-Ga2O3 (010)単結晶中の欠陥(転位)の三次元再構成像
(撮影条件:波長405 nm、対物レンズ20× NA=0.5)

本研究成果は、下記に開催する2026年度JFCC研究成果発表会で発表します。

   7月17日(金) 東京会場:東京大学 武田先端知ビル5F
   7月24日(金) 名古屋会場:愛知県産業労働センター(ウインクあいち2F、5F)

この成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(JPNP22007)の結果得られたものです。

II【本研究の詳細】
①現状と課題

 日本発の材料であるβ-Ga2O3は、低コストでの結晶成長が可能であり、さらに超高耐圧特性を有することから、電気自動車の普及、鉄道の省エネルギー化、再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電などで得られた電力)の有効活用を支える次世代パワーデバイス材料として注目されています。パワーデバイスは、電力を効率よく変換・制御するための中核技術であり、エネルギー利用の高効率化や脱炭素社会の実現に不可欠です。
 その中でもβ-Ga2O3は、高耐圧動作が可能であることに加え、比較的結晶成長が容易で大面積ウエハを作製しやすいという特長を有しています。一方で、結晶中には転位などの結晶欠陥が残存していることが課題となっています。これらの欠陥は、デバイス性能を低下させるだけでなく、長期信頼性にも影響を及ぼします。
 こうした課題を解決するためには、結晶中の欠陥がどこに、どの程度存在しているかを正確に把握し、その情報を結晶成長条件の改善へフィードバックすることが不可欠です。そのため、ウエハ全面にわたり欠陥を高速・非破壊で観察可能な評価技術の確立が求められています。
 現在、β-Ga2O3の欠陥分布を非破壊で観察する手法の一つとして、X線トポグラフィ(注6)が知られています。この手法では特殊な設計のゴニオメータ(注7)を用いることで結晶内部の欠陥を三次元的に観察することが可能です。しかし、測定や解析には結晶学やX線回折に関する専門知識が必要であり、誰もが容易に扱える手法ではありません。

②研究内容
 本研究では、β-Ga2O3結晶を位相差顕微鏡により観察し、高速かつ大面積での欠陥評価が可能であることを実証しました。1枚あたり360 µm × 300 µmの画像をわずか0.003秒で取得でき、6インチウエハ(注8)全面の観察に必要な約17万枚の画像も、計算上約500秒で撮影可能です。
 取得した画像には点状のコントラストが観察され、他の評価手法と比較することで、転位に対応していることを明らかにしました。また、他の手法との一致率は96%を超えており、高い検出精度を有することも確認されました。
 さらに、焦点位置を結晶の上面から下面まで変化させながら三次元観察を行った結果、転位の多くは特定の方向にわずかに傾きながら直線的に貫通していることがわかりました。一方で、傾斜方向が異なるものや、全体としては貫通しているものの局所的に蛇行しているものなど、さまざまな形態の転位が存在することが明らかとなりました。
 加えて、X線トポグラフィでは分離できなかった近接転位(間隔約6.5 µm)についても個々の転位を識別可能であることが分かり、転位の分布や密度を従来よりも高精度に評価できることが示されました。

③成果の意義および今後の展開
 本研究により、位相差顕微鏡を用いてβ-Ga2O3結晶中の欠陥を高速かつ大面積にわたって三次元的に観察できることが示されました。従来手法では困難であったウエハ全面の非破壊評価が可能となることで、結晶中の欠陥分布や欠陥密度を網羅的に把握できるようになる点に大きな意義があります。
 また、本手法は観察操作が比較的簡便であり、特別な熟練を必要としない点も特長です。このため、研究用途にとどまらず、ウエハの検査装置としての実用化も期待されます。高速かつ広範囲の評価が可能であることから、製造現場における製造ラインの中でそのまま行える検査(インライン検査)や品質管理への応用にも展開が見込まれます。
 さらに、本技術は結晶成長条件の最適化に対して迅速かつ的確なフィードバックを提供できるため、β-Ga2O3結晶の高品質化を加速することが期待されます。これにより、パワーデバイスの性能向上および長期信頼性の向上に貢献し、自動車、鉄道、電力変換など幅広い分野でのβ-Ga2O3デバイスのさらなる普及を後押しします。
 今後は、本手法のさらなる高精度化・自動化を進めるとともに、欠陥の種類判別や定量評価の高度化を図ります。また、他のワイドバンドギャップ半導体材料への展開も視野に入れ、次世代パワーデバイス材料の開発に貢献していきます。

図2 位相差顕微鏡の光学系。直接光と回折光が干渉して位相像を作る。三次元観察は焦点面を結晶の表面から中へ試料面に対して垂直に動かして行う。

図3 (a),(c)位相差顕微鏡像。(b),(d)X線トポグラフィ像。

X線トポグラフィの転位像A~Dが位相差顕微鏡の転位像Ai~Diに分離される。

【論文情報】
本成果は2026年2月12日に国際科学雑誌「APL Materials」(AIP Publishing)にオンライン公開されました。
タイトル:High-speed, high-resolution, three-dimensional imaging of threading dislocations in β-Ga2O3 via phase-contrast microscopy
著者:Yukari Ishikawa, Daiki Katsube, Yongzhao Yao, Koji Sato, and Kohei Sasaki
掲載誌: APL Materials
DOI:10.1063/5.0294098

【謝辞】
この成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(JPNP22007)の結果得られたものです。

【用語説明】
(注1)酸化ガリウム:日本発の材料で融液成長が可能。次世代の省エネ、超高耐圧電子デバイス用半導体として注目を集める。
(注2)パワーデバイス:整流ダイオード、パワートランジスタなど、電力変換・制御用半導体素子のこと。
(注3)転位:原子配列のわずかなずれによって生じた線状の微小欠陥。
(注4)結晶欠陥:本来、理論上では原子が規則正しく配列するはずの結晶にある、原子配列が乱れて空間的な繰り返しパターンに従わない部分。格子欠陥が含まれると
     パワーデバイスの性能と信頼性が低下する。
(注5)位相差顕微鏡:光学顕微鏡の一種で、透明なものの屈折率の違いを明暗に変えて画像化するもの。もとは、透明な微生物や細胞を見るための顕微鏡。(Ceramic
     Forum Crystalline Tester CP1
(注6)X線トポグラフィ:X線回折を利用して、結晶内の欠陥や結晶面湾曲などを2次元マッピング画像として撮影・観察する方法。
(注7)ゴニオメータ:試料の方位を精密に回転・傾斜させ、結晶方位を制御するための装置。
(注8)ウエハ:単結晶を薄い円盤状に加工したものでこれの上にデバイスを作る。ウエハのサイズが大きいほどデバイスの製造コストが小さくなる。


<本研究の内容に関するお問い合わせ先>
 株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
 佐々木公平
 Tel:04-2900-0072(受付専用)、Fax:04-2900-0059
 E-mail:

 (一財)ファインセラミックスセンター
 材料技術研究所 機能性材料グループ 石川由加里
 Tel:052-871-3500、Fax:052-871-3599
 E-mail:

<報道に関するお問い合わせ先>
 株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
 増井建和
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 (一財)ファインセラミックスセンター
 研究企画部
 Tel:052-871-3500、Fax:052-871-3599
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