世界初、垂直ブリッジマン法による6インチβ型酸化ガリウム単結晶の作製に成功

株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
国立大学法人信州大学        
国立研究開発法人産業技術総合研究所 
2023年12月25日

世界初、垂直ブリッジマン法による6インチβ型酸化ガリウム単結晶の作製に成功
―β型酸化ガリウム基板の大口径化・高品質化に貢献―

 (株)ノベルクリスタルテクノロジーは、垂直ブリッジマン(VB)法による6インチβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)単結晶の作製に世界で初めて成功しました。本成果により、β-Ga2O3基板の大口径化・高品質化の実現に向けた大きな前進が期待できます。β-Ga2O3パワーデバイスが広く普及すれば、太陽光発電向けパワーコンディショナー、産業用汎用(はんよう)インバーター、電源などのパワーエレクトロニクス機器の高効率化・小型化、さらには自動車の電動化や空飛ぶクルマなどの電気エネルギーの高効率利用への貢献が期待できます。

1.概要
 近年、シリコン(Si)製のパワーデバイスの性能を超える材料として炭化ケイ素(SiC)※1や窒化ガリウム(GaN)※2が注目を集めています。β型酸化ガリウム(β-Ga2O3※3はこの2つの材料よりも大きいバンドギャップエネルギー※4を有するため、より高性能なパワーデバイスが実現される可能性があり、かつSiと同じように「融液成長法」によって高品質の単結晶基板を安価に製造できる新しい半導体の材料です。これらの特徴から、β-Ga2O3パワーデバイス※5が実用化されれば、家電や電気自動車、更には鉄道車両、産業用機器、太陽光発電、風力発電などのパワーエレクトロニクス機器のさらなる低損失・低コスト化が可能となるため、国内外の企業および研究機関において開発が進められています。また、β-Ga2O3パワーデバイスの低コスト化を実現し、広く社会に普及させるためには、β-Ga2O3基板の大口径化が必須であり、単結晶の大型化が強く望まれます。
 株式会社ノベルクリスタルテクノロジーは、これまで主にEFG(Edge-defined Film-fed Growth)法による単結晶製造技術を開発しており、現在研究開発用として2インチおよび100 mm基板の製造・販売を行っています。さらなる基板の大口径化・高品質化を達成するため、JST 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)において、VB法による6 インチβ-Ga2O3基板の開発に取り組んできました※6。VB法によるβ-Ga2O3単結晶育成技術は信州大学が発案し開発を進め、これまでに2インチおよび4インチの単結晶の作製に成功してきました。(株)ノベルクリスタルテクノロジーは信州大学よりこの育成技術を継承し、継続的に大口径化の開発を行ってきました。その結果、今回VB法6インチ結晶育成装置を立ち上げ、世界初となるVB法による6インチ単結晶の作製に成功しました。また、結晶の評価・解析を担当する産業技術総合研究所においてEFG法およびVB法を用いて作製した単結晶から取得した基板をX線トポグラフィ法により評価し比較しました。その結果、VB法による結晶では、EFG法によるもので見られた高密度の直線状欠陥が、大幅に抑制されていることを見いだし、品質的にもVB法によって作製した結晶が優れていることが実証されました。

2.今回の成果
[1] VB法による6インチ単結晶の作製

 現在、(株)ノベルクリスタルテクノロジーで結晶製造を行っているEFG法の概要を図1(a)に示します。EFG法は引き上げ法の一つであり、大きな成長速度を得やすい育成方法です。しかし、得られる結晶が板状であり、そこから円形の基板をくりぬいているため、加工時に不要部分が生じてコストが高くなることや、β-Ga2O3結晶の強い異方性に起因して結晶引き上げ方向の制約が強く、得られる基板の面方位が限定されるという課題があります。今回開発を進めているVB法の概要を図1(b)に示します。VB法は、原料を格納した坩堝(るつぼ)を温度勾配のある炉内に格納し、原料を溶融させた後に坩堝を引き下げて凝固させる育成方法です。よって、坩堝と同じ形の結晶が得られるため、円筒形の坩堝を使えば円筒形の結晶が得られ、基板化加工の際の不要部分が大幅に少なく、低コスト化が可能となります。さらに、引き上げ法による育成と異なり、坩堝内の融液を凝固させる育成法であるため、結晶の異方性に起因する成長面の制約を受けにくく、さまざまな基板の面方位を作製可能であり、EFG法の課題を解決できると期待されます。それに加え、引き上げ法と比較して温度勾配が小さい環境での育成が可能であるため、結晶の高品質化が可能であることや、結晶成長方向に対して垂直に基板を取得できるためにドーパント濃度の面内均一性の向上が期待できるといった特長もあります。

図1. (a)EFG法の概要 (b)VB法の概要

 新たに構築したVB法6インチ結晶育成装置を用いて、得られた結晶の外観を図2に示します。種結晶から最終固化部まで透明であり、単結晶であることがわかります。また、定径部(最も径が広い部分)の直径は6インチ以上であり、6インチ基板を取得可能な結晶が得られました。さらに、種結晶の方位を引き継いだ単結晶を成長できていることがわかりました。


図2. VB法で作製した6インチ単結晶
(a)全体像 (b)種結晶側の外観 (c)最終固化部側の外観

[2] X線トポグラフィによるEFG法とVB法を用いた基板の品質評価
 EFG法およびVB法で育成した結晶の品質を比較するため、結晶欠陥評価手法の一つであるX線トポグラフィ法を用いて結晶品質の評価を行いました。図3に、EFG法およびVB法で作製した基板のX線トポグラフィ法による観察像を示します。図3(a)に示すように、EFG法で作製した基板には、直線状欠陥が高密度に発生していることが確認できます。一方、図3(b)に示すVB法で作製した基板には直線状欠陥がほぼ発生していないことがわかります。なお、VB法で作製した基板の表面に網目状に見えるものは転位網であると考えられます。EFG法で作製した基板の表面には網目状のコントラストが確認されませんが、直線状欠陥等による大きなひずみ場のため見えにくくなっていると考えられます。以上の観察結果から、VB法を用いて作製した基板は、EFG法を用いて作製した基板よりも結晶品質が向上していることがわかりました。


図3. X線トポグラフィによる観察像
(a)EFG法によって作製した基板 (b)VB法によって作製した基板

3.今後の予定
 今後は、VB法による高品質単結晶育成技術の開発を継続するとともに、VB法の特長である成長面方位の柔軟性を生かした基板開発に取り組みます。
 (株)ノベルクリスタルテクノロジーは、今後も融液成長法によるβ-Ga2O3バルク単結晶育成技術開発を通じて、β-Ga2O3パワーデバイスの普及と持続可能な省エネルギー社会の実現を目指します。

4.謝辞
 本研究は、科学技術振興機構研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 企業主体(マッチングファンド型)の助成を受けたものです。

【注釈】
※1 炭化ケイ素(SiC)
  ケイ素と炭素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
※2 窒化ガリウム(GaN)
  ガリウムと窒素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
※3 β型酸化ガリウム(β-Ga2O3
  ガリウムと酸素の化合物で、ワイドギャップ半導体の一つです。
※4 バンドギャップエネルギー
  結晶のバンド構造において、伝導帯の最も低いエネルギーレベルと価電子帯の最も高いエネルギーレベルの間のことをいい、電子が存在できな
  いエネルギー状態。
※5 パワーデバイス
  高耐圧、高電流を制御することが可能な半導体素子のことで、インバーターなどの電力変換機器に用いられます。
※6 JST 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)
  概要: https://www.jst.go.jp/a-step/outline/index.html

5.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
 (株)ノベルクリスタルテクノロジー 営業部 担当:増井 TEL:03-6222-9336
 (大)信州大学 工学部 総務グループ研究支援係 担当:太田 TEL:026-269-5028
 (国研)産業技術総合研究所 ブランディング・広報部 報道室 Email:hodo-ml@aist.go.jp