高品質β型酸化ガリウム膜形成技術の開発に成功

 

株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
国立大学法人佐賀大学
株式会社タムラ製作所
2019年4月18日

高品質β型酸化ガリウム膜形成技術の開発に成功
−酸化ガリウムパワーデバイスの大電流化に目処−

酸化ガリウム膜に含まれる結晶欠陥を低減することで酸化ガリウムパワーデバイスのリーク電流が大幅に減少。
これにより数10 A級の大電流素子の製造が可能になりました。

株式会社ノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県狭山市、代表取締役社長 倉又朗人)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構からの助成(戦略的省エネルギー技術革新プログラム、実用化開発「アンペア級酸化ガリウムパワーデバイスの開発」)を受け、佐賀大学、株式会社タムラ製作所と共同で、β型酸化ガリウムエピタキシャル膜1の高品質化技術を新開発しました。本成果により、超低損失大電流の酸化ガリウムパワーデバイスの量産が可能になります。

ショットキーバリアダイオード(SBD)2やトランジスタ3に代表される半導体パワーデバイス(以下、パワーデバイスと表記)は、家電・自動車・電車・産業用機器など、世界中のあらゆる電気機器に組み込まれ、電圧や電流の制御を行っている部品です。その制御を行う時にパワーデバイスの中を電気が流れますが、パワーデバイスの電気抵抗が大きいと、そこで電気エネルギーの損失が生じます。例えば電気自動車の場合、充電池に蓄えた電気エネルギーで走行しますが、パワーデバイスによる電力変換で電気エネルギーが失われると、一回の充電で走行できる距離が短くなってしまいます。このようにパワーデバイスの低抵抗化(低損失化)は電気機器にとって重要な課題になっています。

酸化ガリウムは、現在パワーデバイス用材料として開発が進められている炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と比べ、4.5 eV4とより大きなバンドギャップエネルギー5を有するため、より低損失なパワーデバイスを実現できる夢の新材料です。また、酸化ガリウムはSiCやGaNと異なり、融液成長法6による結晶育成が可能であり、高品質で大型の単結晶をSiCやGaNの100倍高速に成長することができるため低コスト化も期待できます。これらの特徴から、酸化ガリウムパワーデバイスの早期実用化に向けて、国内外の企業および研究機関が研究開発を加速しています。

【内容】

これまでに、主要な研究機関より酸化ガリウムパワーデバイスの動作実証が報告されてきました。しかしながら、酸化ガリウム膜の結晶品質に課題があり、素子サイズを大きくするとリーク電流※7が急激に増加してしまうため、1 A程度の電流を流せる小型の素子しか作る事が出来ていませんでした。酸化ガリウムパワーデバイスを家電や自動車、産業機器などへ広く普及させるためには、10 Aから数100 A程度の電流を流すことができる大型素子を実現する必要がありました。

今回、ハライド気相成長法※8を応用した独自の酸化ガリウム膜形成技術およびその評価手法を開発し、酸化ガリウム膜中の結晶欠陥を当社従来品の1/100に低減する事に成功しました。これにより、酸化ガリウムパワーデバイスのリーク電流が大幅に減少し、大型素子の製造が可能になりました。[図1]に、試作した酸化ガリウムSBDの断面模式図を示します。また[図2]に、従来技術と新開発技術を用いて作製した、素子サイズφ500 μmの酸化ガリウムSBDの逆方向特性比較図を示します。今回試作したSBDは従来品よりもリーク電流が1万分の1に減少しています。

[図3]に、大電流動作実証のために試作した、2.3 mm角 酸化ガリウムSBDの電流-電圧特性を示します。十分に低い逆方向リーク電流を維持したまま、従来に比べ電流値が20倍の20 Aでの動作に成功しました。すでに我々は、トレンチ構造※9を導入したSBDを開発し、順方向電圧※10がSiCよりも40%程度低い低損失ダイオードの実証に成功しています。(2017年9月12日付、プレスリリース参照)今後は、今回開発した技術をトレンチ型SBDへ適用し、10 A級の低順方向損失酸化ガリウムSBD開発を進めて参ります。本デバイスが実現されれば、家電、自動車、産業機器などの様々な電気機器の省エネルギー化に貢献できると期待されます。

図1.β型酸化ガリウムショットキーバリアダイオードの断面模式図
図2.β型酸化ガリウムショットキーバリアダイオードの逆方向リーク特性比較図

   図3.2.3 mm角 酸化ガリウムショットキーバリアダイオードの電流-電圧特性(a) 逆方向特性(b) 順方向特性

【今後の展開】

新開発した酸化ガリウム膜付き基板を近日中に販売開始する計画です。また、2019年度下期より、10〜30 A、650 V酸化ガリウムトレンチ型SBDのサンプル出荷を開始し、2021年からの本格量産開始に向けて準備を進める予定です。今後更なる結晶欠陥の低減に取り組み、数100 A級の酸化ガリウムパワーデバイスの早期実現にも取り組んで参ります。

【用語解説】

※1 エピタキシャル膜
基板となる結晶の上に結晶成長を行い、下地の基板の結晶面にそろえて配列した結晶膜。

※2 ショットキーバリアダイオード (Schottky barrier diode: SBD)
ショットキー電極と半導体との接合によって生じる電位障壁を利用したダイオード。低い順方向電圧と、低スイッチング損失を特長とする。

※3 トランジスタ
増幅、またはスイッチ動作をさせる半導体素子。MOSFETやサイリスタ、IGBTなど、構造や動作原理の異なる様々な製品がある。

※4 eV (エレクトロンボルト)
自由空間内で一つの電子が1 Vの電圧で加速されるときのエネルギーを1 eVと表記する。

※5 バンドギャップエネルギー
固体内電子の、伝導帯の最も低いエネルギーレベルと価電子帯の最も高いエネルギーレベルの間で、電子が存在できないエネルギー状態。金属ではバンドギャップはゼロであり、絶縁体では大きな値となる。半導体はこの中間にあり、バンドギャップの大きさによりその伝導特性が大きく変化する。

※6 融液成長法
結晶化させたい材料をるつぼの中で融点以上に加熱して融解させた後、種結晶を接触させてゆっくり温度を下げることで単結晶を得る方法。チョクラルスキ法やフローティングゾーン法、Edge-defined film-fed growth法などが有名。

※7 リーク電流
オフ状態のパワーデバイスにおいて、意図せず流れてしまう漏れ電流。低いほど好ましい。

※8 ハライド気相成長法
化学気相成長法の一種。呼称は、原料ガスにハライド(ハロゲン化物)を用いていることに由来する。酸化ガリウム膜を形成する場合、塩化ガリウムを原料ガスとして用いるのが一般的。

※9 トレンチ構造
エッチング技術により半導体表面に形成された溝構造。

※10 順方向電圧
オン状態のダイオードにおいて発生する電圧降下。低いほど好ましい。

【問い合わせ先】

株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
《研究内容》営業部  TEL:04-2900-0072
《報道関係》上記に同じ
国立大学法人 佐賀大学
《研究内容》 理工学部  TEL:0952-28-8511
《報道関係》総務部総務課広報室 TEL:0952-28-8153
株式会社タムラ製作所
《研究内容》コアテクノロジー本部セミコン開発室  TEL:04-2900-0045
《報道関係》経営管理本部 経営支援グループ  TEL:03-3978-2013

※ノベルクリスタルテクノロジーは、β型酸化ガリウム基板・エピタキシャルウエハの開発、製造、販売を行うタムラ製作所のカーブアウトベンチャーであり、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の技術移転ベンチャーです。

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